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EBドクター医師のインタビュー

最初に、先生の病気の症状について教えてください。

私の病気は、表皮水疱症です。皮膚は、主に表皮、真皮、皮下組織の3つに分かれていますが、表皮水疱症というのは、表皮と真皮をつなぎとめている接着タンパクを上手く作ることができない先天性の病気です。私には生まれた頃から、ちょっとした外力で表皮がずるっと剥けてしまったり、爪が何かに引っかかるだけで簡単に剥がれてしまうといった症状がありました。重症な方では、全身の皮膚がただれたような状態になって、1歳未満で亡くなってしまうこともあります。一方、軽症の方では、夏だけ足の裏の皮がめくれる程度で、日常生活にはあまり支障がないこともあります。

子供の頃だと、遊んだり運動したりするのにも気をつけなくてはならない状況だったのでしょうか。

その通りです。例えば私の場合は、ちょっとぶつかるだけで皮がめくれてしまっていたので、自転車の練習などは相当親が気を遣ってくれていたようです。また、傷ができた時の対処法などについて、学校の保健室の先生に事前に依頼もしてくれていました。その他、柔道の授業はずっと見学していました。

年齢が上がるにつれて、少しは症状が改善したりするものなのですか。

病型によっては、良くなっていくタイプもありますが、私の場合は残念ながら少しずつ悪くなっていきました。中学や高校の多感な時期にどんどん傷跡が増えてくることで、整容面でのコンプレックスを感じて、半袖を着れないなど、皮膚を隠してしまうような状況でした。

いまは見ていても全然わかりませんが、生活の仕方や注意によって、症状の悪化を防ぐことはできるのですか。

基本的には外力を避けることしかないです。私の場合、ある時期から全身がすごく痒くなってしまい、掻くことで傷がたくさんできてしまい、中学高校の時期に急に悪くなってしまいました。それがなければ、もう少し調子は良かったかもしれません。

私たちが想像できないような、日常生活の不便さはありますか。

一つは、整容面の問題です。例えば爪の形が悪いので人前に出るときに爪を隠す、半袖を着られず年中長袖を着る、プールや温泉にもなかなか入ることができないといった、ちょっとした不便さは感じます。私の場合は、それ以外ではあまり不便を感じませんが、私よりも重症の方では、指がグーの状態で癒着してしまう方もいます。そのような方の場合は、スプーンを持てないとか、ドアノブが握れないといった苦労をされているようです。

大変ですね。ところで、医師を目指そうと思ったのはいつ頃でしょうか。

私はもともと、医師を目指してはいませんでした。ただ医療系の仕事について、自分の病気と似たような病気で困っておられる方の役に立てればいいなと、考えていました。親が薬剤師ですので、私も薬剤師になって特効薬のようなものの開発に携わることができればと思っていました。ところが、ラッキーなことに学業の成績が伸びてきて、医師という選択肢もできてきました。患者さんと直接接して自分で治療方針を決めることができるため、医師を目指したという感じです。

それはいつ頃のことですか。

小さい頃から医療関係の仕事に就ければ良いなと思い、自分なりに一生懸命勉強していましたが、成績が急に伸びたのは高校2年生の時でした。過度なストレスは避けたかったので、自分自身をあまり追い詰めないよう注意していたように思います。

合格して、今度は医学部で勉強をしていく中で、自身の症状との関係で難しいことはありましたか。

一つ目は解剖実習です。解剖実習に用いるご遺体は、腐敗しないよう特殊な液を使っているため、特有の匂いがすることに加え、長時間暑い中で白衣を着て作業する必要があったため、腕の皮膚の症状が悪くなったりしました。二つ目は学生同士で聴診器を当てたり、エコー検査を行ったりする実習です。私は自分自身の肌を露出したくなかったので、同期の人たちにそのことを伝えて、被験者役を代わってもらったりしました。三つ目は手術場での実習です。手術場で着る術衣は、通常の場合、半袖です。私は腕にたくさん傷があり、人に見せたくないという気持ちがあったことに加え、感染リスクという観点から、長袖のガウンのようなものを着て実習を受けさせていただきました。事前に担当してくださる指導医の先生に相談しておけば、親切に対応してくださると思います。

大学の側は、先生のような症状があることに対して、教育の中でも比較的に柔軟に配慮をしてくれたということですか。

おそらく依頼すれば、どうとでも対処してくれたのではないかと思います。基本的には、私自身もしくは同級生、直接指導してくださる先生といった、小さなコミュニティ内だけで対処できるような内容だったので、その都度臨機応変に対応できました。特に不都合はなかったように思います。

実習では配慮が必要だったようですが、実習以外の講義などではどうだったでしょうか。

座学に関しては、全く問題なかったです。

ちなみに、その頃は自宅から通われていたのですか、下宿や寮に入られていたのですか。

最初2年間は自宅から通っていました。3年生からは下宿して一人暮らしをしました。

皮膚科を選択された理由はどういうものでしょうか。

自分自身の病気について知らないことがたくさんあったこと、そして同じ病気で苦しんでる人の役に立ちたいと中学高校の頃から考えていたので、医学部入学当初から一貫して皮膚科医になりたいと考えていました。ただ、初期臨床研修中に様々な科で研修させていただいた時に、循環器内科がすごく魅力的で、循環器内科医になりたいと思った時期がありました。医学生の頃から親しくさせていただいていた皮膚科の教授にそのことを相談したら、その教授が「あなたは皮膚科医になるために生まれてきたようなものだ。循環器内科が楽しいというのは分かるけれど、皮膚病で苦しんでる人たちのことを分かってあげられるのだから、皮膚科医になりなさい。」と言ってくださったのです。普通、教授は自分の元(医局)で働かせたいのですが、その先生は「あなたが皮膚科医になるのだったら、しっかり勉強できるように、私が表皮水疱症についてしっかり勉強できる大学を紹介してあげる」と言ってくださいました。それで私は出身大学と違う別の大学の皮膚科に入局し、そこで皮膚科学を学ぶことになりました。

その大学は、皮膚科では進んでいたところなのですね。

その大学の教授は、表皮水疱症について日本の第一人者だと思います。

ほんとに良く考えて紹介いただいたのですね。

本当に感謝しかないですね。循環器内科医になっていたら、また人生が変わっていたと思います。

皮膚科にもいろいろな患者さんが来られると思いますが、そういう患者さんを診られてどう感じますか。

私自身は正直に言うと、中学生や高校生前半の時期に、軽い病気で苦しんでいる人の姿を見て、そんなことで悩みやがってと、自分自身の不幸さと他人の不幸を比べて、こちらの主観で相手の苦しみを評価していました。そのずっと苦しんでいた時にふと考えたのは、それぞれの苦しみというものを他人が客観的に評価してはいけないということです。例えば、おでこにホクロがある人がいて、その方がそのホクロに強いコンプレックスを持っていて、本人はすごく悩まれているかもしれない。それを周りの人がこんなことで悩んでという形で評価するのは良くないなと思ったのが、高校生の頃でした。そう思うようになり、いま実際に皮膚科医になって、比較的軽症な患者さんに対しても、そのことは患者さんにとっては辛い問題なのかもしれないと考え、その患者さんの悩みに共感することができているのかなと思います。中学や高校の頃の自分が辛かった時期には、なかなか考えられなかったことかもしれません。自分自身が病気だからこそ、患者さんの気持ちを少し理解しやすいのかなと、いまは思っています。

大切なことですよね。

遺伝病ならではの辛い問題が生じることがあります。例えば、遺伝病の赤ちゃんを産んだご両親は、お子さんに対して申し訳ないという気持ちになり、自分自身に責任を感じてしまうことがあります。このような場合、私は自分自身が実はこういう病気なんですと、自分の病気のことを伝えるようにしています。その上で、自分自身が成長するにあたって親を恨んだことなど一度もないこと、親が私のことを心配していつもそばにいてくれるだけで私自身は十分感謝していることなどを伝えさせていただいたりしています。こういうことは、自分自身が患者であるからこそできることなのかもしれません。

患者さんの立場を一方的に頭で理解するのではなくて、自分自身が経験されている中で感じているからこそ、伝えられることですね。

僅かかもしれませんが、少しは近い立場で話ができているような気はしますね。

そうですね。寄り添っていただいている感じがすると思いますね。

それもあって、私は皮膚科医になって良かったと思っています。

医師として働いている上で苦労されていることについて、差し支えない範囲でお聞かせください。

医師として働く上で苦労していることは、基本的にはありません。ただ、疲れが溜まると、どうしても身体を掻いてしまい、傷がたくさん増えてしまうので、疲労やストレスがあまり溜まらないよう、自分自身で仕事をコントロールしながらやっている気がします。また、爪は指先の細かな感覚にとても重要なのですが、私は爪が分厚くなっているため、細かな物が掴みづらかったりします。そのため、手術などの細かな作業は少し苦手な気がします。もっとも、そもそも手先が不器用な方はたくさんいるので、爪の問題が特別自分にとって不利になっているとは思っていません。

そういう症状があるために、何か工夫されていることはありますか。

医師はたくさんの仕事をこなす必要がありますが、過度なストレスを溜めず、普段から要領よく仕事を進めていくように努めています。

匂いとか刺激とかが診療の中で強くならないよう、特にしていることはありますか。

そういうことは特にありません。

それでは最後に、何かお話しいただきたいことがあれば、自由にどうぞ。

自分自身が患者でもある医師は、患者会に積極的に参加しても良いかもしれません。私は患者会で講演をするなど、可能な範囲で患者会に関わらせていただいています。表皮水疱症は日本国内に千人ぐらいしか患者がいない希少な病気のため、診断すらつかずに途方に暮れてしまう患者さんが国内外にたくさんおられます。患者会に関わることで、患者さんたちが実際に何に困っているのか知ることができます。自分自身の症状や生活環境では何ともなかったことが、別の方だとこういう点で問題があるということ、表皮水疱症という病気を詳しく知る医師が周りにいないため、十分な治療を受けることができていない方がいることなどを知りました。
この病気は皮膚だけの病気ではなく、食道が癒着して狭窄したり、腎不全になり透析が必要になる方もいます。表皮水疱症は希少な疾患であるため、表皮水疱症患者の食道狭窄や腎不全を専門的に診察できる医師は、ほとんどいないと思います。私が考えているのは、例えば東京でも大阪でも名古屋でも構わないのですが、日本各地から患者が集まりやすい場所に表皮水疱症のセンターを作るということです。九州や四国からでも年に1回はセンターに来ていただいて、全身の皮膚の状態を確認し、またその際に表皮水疱症で生じうる合併症もチェックして、適切に処置を施します。症例を集約することにより、医師自身の経験も増えていけば、より良い治療が行えるようになると考えています。そして、患者さんは地元に戻って、普段の治療を地元で受けて頂くというシステムです。こういうことをやりたいと考えるようになったのも、患者会に参加して、現状で何が足りないかが分かったからです。医者として患者として、日々熱意を持ってやりがいがある仕事を進めています。

その夢がいつか実現すると良いですね。本日は、どうも有難うございました。