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"夢をつなぐ" Doctor's Network

Y.F医師のインタビュー

最初に、ご自身の障害についてお聞かせください。

先天性の両下肢の麻痺で、長下肢装具という太ももから下全体の装具を両足ともに着けていて、それがあれば歩けますが、外してしまうと全く立てない状態です。足には先天性の変形もあります。

そうした状態だと、子供の頃から色々と苦労されてきたと思いますが、学校にはどのように通われていたのですか。

保育園の頃に少しだけリハビリをしていて、バランスを取るのが上手かったようで、装具を着ければ杖をつかずに歩けるようになっていました。小学校からすべて普通学級で、体育や遠足もできる範囲で参加していましたし、他はほぼみんなと一緒に授業を受けていました。学校側にも色々と配慮いただいて、手すりをつけたり、階段の昇り降りが少ないように、教室も下の階にしてもらったりということがありました。

この病院に通うのに、通勤はどうされているのですか。

今は病院の隣のマンションに引っ越したので、通勤は特に問題はありません。以前別のところに住んでいた時は、病院まで手動式の車で通勤していました。

電車通勤だと、どうしても階段の上り降りなどがあって、通勤するだけで疲れてしまいますよね。

そうですね。社会人になってからは、車を使うことが増えました。

ところで、医師を志されたのはいつ頃ですか。

具体的に医師になりたいと思ったのは、中学生頃だったと思います。

何かきっかけがあったのですか。

もともと主治医の小児整形の先生が女医さんだったこともあり、格好いいなという漠然とした憧れがありました。中学生の時に阪神・淡路大震災があり、自分の将来のことを考えました。中学2年生の時に、少年の主張大会という作文コンクールがあって、担任の先生から自分のことを書いてみないかと言われ、自分の障害のこととか、周りの友人に凄く助けられて今まで生活を送れてきたことを振り返ってみて、将来何になりたいかということも書いたんです。今まで助けてもらった分、今度は人の役に立つような仕事がしたいということで、医師になりたいと書いたんです。多分そのことが、医師を目指そうというきっかけになったと思います。

主治医の素敵な先生が小児の整形外科だったので、やはり整形外科がイメージとしてはあったのでしょうか。

ただ、自分は外科系はちょっと難しいのじゃないかという気持ちはあって、当時は子供の小児科とか震災があって心のケアが大事ということもあったので精神科とか、そういった方面にも興味はありました。

医師を志して、次に大学を受験するという具体的な行動に移るとき、心配なことはありませんでしたか。

実際に障害を持って働いている医師がいるのかも分からなかったので、そこは不安でした。今のようにホームページ等で情報が得られていれば、そういう人もいるんだということで、挑戦しようという勇気を持てたと思いますが。医師は実習もハードだと聞いていましたし、勤めてからも体力的な面で大丈夫かなあ、という不安はありました。

障害がありながら働いている医師がいることを知る機会は、大学に入るまではなかったということですか。

そうですね。

大学に入ってからは、実習とかも大変だったでしょうね。大学には過去にそういう例はなかったのですか。

どうでしょうか。あまり聞いたことはなかったです。

今は大学に障害学生支援室のようなものがありますが、学生の頃はまだなかったのでしょうか。

なかったと思います。ただ入試のときには、私の場合は特に配慮してもらうこともなかったので、相談することもありませんでした。

大学に入ってからは、実習系のものでは苦労されましたか。

そうですね。その都度、担当の先生に相談しながらということでした。

大学としても、道を拓きながらだったのでしょうね。

そうだったかもしれません。

大学は6年で、そのあと初期研修が2年ですが、どちらの病院でしたか。

大学のある大阪府内の病院でした。6年生の実習の時にその病院に行く機会があり、病院の様子も見ていたので、そこで初期研修を受けることになりました。

リハビリテーション科に進もうと思ったのは、いつですか。

大学に入ってからです。それまではリハビリテーション科の医師がいること自体も知りませんでした。関西にはリハビリテーション科の講座もあまりないのですが、大学に入ってからリハビリテーション科の講義があり、装具の勉強もありました。自分が着けているのに自分の装具のこともあまり知らないのだなあとか、障害者医療に携わる医師という道もあるのかということで、興味を持ちました。初期研修に行った病院にはリハビリテーション科があって、そこで勉強してから将来を決めたいと思って、志望しました。

初期研修の後は、どうされたのですか。

初期研修2年目の時に、リハビリテーション科で実習をさせていただきました。研修医でリハビリテーション科を回る人は少なくて、私が初めてだったそうです。そこで進路をリハビリテーション科に決め、先生の紹介で出身大学とは別の大学に新しくリハビリテーション科の講座ができたので、そちらで後期研修を受けることになりました。

こちらの病院に移られたのは、いつ頃ですか。

後期研修の1年目は大学の付属病院で、その後2年間は大阪府立の急性期医療センターのリハビリテーション科に行きました。その当時、こちらの病院は古い建物でエレベーターも1台しかなかったのですが、建て替え後の2012年からこちらに移りました。

建て替え後ですから、環境的には大変恵まれていましたね。

はい、本当にハード面では全く困ることがありません。

今、医師として働いている上で、ご自身で何か工夫されている点はありますか。移動以外には、それほど苦労されていることはないでしょうか。

そうですね。私はリハビリテーション科の医師ではありますが、実際に体を触ってリハビリを行うのは、理学療法士だったり、作業療法士だったり、言語聴覚士なので、チームをまとめるような役割になるんですね。そのほかにも、嚥下内視鏡といって喉を見る内視鏡の検査とか、注射などの手技はあるので、姿勢を取るのに難しいときには、ちょっとベッドの高さを変えてもらったりとか、スタッフの皆さんに助けてもらいながらというところです。

そうした際には椅子に座ってするのですか。

椅子に座ってする時もありますし、立ってする時もありますが、一応手技もできています。

立っているのが大変な時には座ることもあるし、過重な負担がかからなければ立って作業することもできるということですね。

長時間でなければ可能です。初期研修の時にも、外科系の研修の際には手術に入ることもありました。長時間立っているのはしんどいので、当時は若くて体力もあったので「3時間は立っていることができます」と指導の先生にはお伝えしました。3時間限定で手術に入らせていただき、3時間経ったらちょっと休憩させてもらうことで、研修させてもらいました。

リハビリテーション科でもいろいろな分野があるようですが、今の病院ではどのような分野をされているのですか。

この病院には、回復期リハビリテーション病棟と障害者病棟があります。基本的には、脳卒中の患者さんとか、脊髄損傷の患者さん、大腿骨骨折されて手術後の患者さんとか、そういった患者さんを中心に、急性期治療が終わった後の回復期のリハビリを入院で行っています。

そうした患者さんに対してチームで行う医療の治療計画を示したり、検査や手技をやられているのですね。

合併症の管理などもやっています。

リハビリテーション科というのは、比較的移動に困難があってもやりやすい診療科なのでしょうか。

そうだと思います。

今の身体の動作のことを考えた時に、比較的やりやすい診療科には、他にどのような診療科がありますか。例えば、内科はどうでしょうか。

内科も、循環器だとカテーテル検査とか手術とかがありますが、内科も分野によってできることはたくさんあると思います。

その他、先ほど言われた精神科でしょうか。逆に、外科系はちょっと難しいですかね。

やはり、長時間の手術となると難しいと思います。

今は、医師として勤務する上で困っていることは、それほどないでしょうか。

今はそれほど感じずに、仕事ができています。

周りの方に何か配慮いただいていることはありますか。

リハビリテーション科は、あまり患者さんの急変はないのですが、何か病棟で急変が起きたときに、階段を降りて駆けつけるのは難しいので、そうした場合は他の先生にお願いしなければいけないとは思います。回診もありますが、私はエレベーターを使って移動させてもらっていますし、それ以外はそれほど困難を感じずに働けています。

これまでのお話は病院の中でのことですが、医師として活動する上では学会で発表したりすることもあるかと思います。少し広がりを持って考えたときに、もう少しこうなれば良いと思われていることはありますか。

学会発表で登壇するのに階段を昇らなければならない時は、ちょっと介助してもらわなければならないことがあります。横に壁があったり、手すりがあれば、ゆっくりでも自分で昇れるのですが、何もない所に段だけあることが、これまでも何回かありました。同じ病院から誰か一緒に行っていれば手伝ってもらえますが、誰もいない場合は学会のスタッフに介助をその場でお願いしなければなりません。会場の状況が事前には分からないので、その時にその場にいる方に介助をお願いすることになってしまいます。その辺がバリアフリーになったら嬉しいなというのはありますね。

あらかじめこちらから伝えて、何かしておいてもらうのは、ハードルが高いのでしょうか。

そうですね。

向こうから聞いてきてくれれば、答えやすいのでしょうね。

事前にお伝えしたらよかったのでしょうが、そこまでなかなか思いが至らなかったところがあります。

今でもそういう状況は変わっていませんよね。

そうですね。事前に聞いていただければ、こういうことですと具体的にお伝えできるかと思います。

他に、病院の中でも外でも、こうなったら良いと思うことはありますか。

私自身、医師になってからは、頸損でも働いている医師がいるなど、障害があっても働いている方が結構いることが分かったのですが、そういった方の話をもっと聞いてみたいですね。

医師で障害のある方に出会ったり、話をされるような機会はありますか。他病院のリハビリテーション科には、車椅子を使われている医師もおられるようですが、学会などでお見かけすることはありますか。

学会でお見かけすることはありますが、人もたくさんいるので、会場で話しかけてお話しするのは難しいです。もっと色々な方のお話を読むなり、直接お話しできれば良いとは思います。

脳卒中などの中途障害の方では、医師として働き続ける上での情報を知りたいようです。障害のある当事者の情報なら医師でない人からでも聞けますし、障害の種別ごとの当事者のネットワークもありますが、そういうものとは別に、医療職という同じ立場の方の話が聞きたいというニーズもあるようです。

私自身は、入学前に知ることができたら凄く良かったなと思います。医師が実際にどういう仕事をしているのか、私の身体でやっていけるのかというところが、全くわからなかったので。精神科なら立ったままということはなさそうだし、できそうかなとか、そういうイメージでしか分からなかったので。実際に車椅子でも診療されている医師がおられたら、どういう工夫をされているのかとか、そういったことを知ることができたら、大丈夫だなという安心材料にはなったと思います。

相当不安があったということですね。その不安のために、医師になるのを諦めてる人もいるかもしれない、ということですか。

そうだと思います。

医師に限らず、いろいろな職業で活躍されている方がいることが分かれば、将来の職業の選択肢として意識できるでしょうね。こうやって働いているということを、どういう世代に伝えたいですか。

高校生ぐらいですかね。進路を考える時期だと思うので。

とても大事なことですね。

医療業界も男性中心の社会ということで、当時はまだ女医さんも少なかったので、障害もあって更に女性でやっていけるのかという不安はありました。ただ、医師になってから分かったことですが、医師免許があれば働くところは、病院以外にも企業とか行政とかもあって、凄く幅広いのですね。リハビリ科も、私のように最初からリハビリ科を選ぶ人はまだ少なくて、内科や整形外科や脳外科から転科して来られる方も結構おられます。医師になってからも道を変えるのは十分できるということも、医師になってから分かりました。

医師という仕事は、他の仕事に比べてかなり勉強しなければならないので、大変だとは思いますが。

リハビリテーション科も扱う疾患がかなり幅広いので、勉強は大変だとは思います。

実際に働かれてみて、リハビリテーション科はどうでしたか。

そうですね、やりがいはとてもありますね。手術などに比べて、自分がこうして良くなったということはなかなかないところですが、総合して治療することで患者さんが社会に復帰して生活していけるようになる、良くなられて退院されて、仕事にも復帰されたという話を聞くと、凄くやりがいを感じますね。

例えばタイムマシンに乗って高校生の時の自分に会って、医師になれるのかどうか悩んでいるのを見たとしら、その時の自分にどういう言葉をかけてあげたいですか。

「諦めなくても、自分の進みたい道に挑戦したらいいよ、大丈夫だよ」ということですかね。私の場合は、高校生の時は成績自体が足りていなくて、医学部は難しいよと先生にも言われていましたが、やっぱり挑戦しないと後悔するなと思って。一年浪人はしましたが、予備校に通って、もう一度挑戦しようと思って勉強しました。それ以前に、私には無理じゃないかと諦めてしまう人がいるとすれば、「諦めないで挑戦してみたら。工夫次第でできることもあるから」と。もし、医師になりたいと思っている方がいれば、その道に向かって進んでいただきたいなと思います。

そういう意味で、若い人から相談に乗ってくれますかと言われたら、どうされますか。

もうそれは是非。一人一人障害も違うので、私だけの経験では参考になるものもならないものもあるとは思いますが、お話は是非。障害を持っていても、医療現場で働く方がどんどん増えてくれれば、嬉しいなと思います。

医療の道に進む人が増えてきて、みんなで情報交換して、さらに若い人たちに「諦めなくていいんだよ、みんなが色々工夫してきたこともあるよ」というメッセージを伝えていければいいですね。

医療って1人ですることではなく、本当にチームでいろんなスタッフが関わってやっているので、自分のできないところはカバーしてもらったり、「こういうところはできます、こういうところはちょっと難しいです」ということを伝えれば、チームでやっていくことが十分できると思います。

そうですね。1人で全てをやるわけではないですよね。ブラックジャックのようなスーパーマンが1人で全部やるのではなく、チームでやっている、そういうことも意外と知られていないかもしれませんね。
最後に、ご自身の将来の夢を語っていただければと思います。

リハビリテーション科の専門医は取得したのですが、リハビリ科もかなり幅広いので、その中でどういう分野を専門にしていくかを考えています。うちの病院は脊髄損傷の患者さんが多いので、脊髄損傷の勉強を中心にしていますが、さらに専門性を持って診療をしていきたいことと、できるだけ長く働いていけたらと思っています。ただ、今は育休から復帰したてで、時間も制限して勤務させていただいているところです。

お子さんは何人ですか。

2人です。4歳の娘と1歳の息子がいます。

まだ小さいので大変ですね。

そうです、大変です(笑)。

是非、将来の夢に向けて頑張っていただければと思います。そして、その姿を色々な機会に若い人達にも知っていただけると良いと思います。
本日は、有難うございました。

(2018年8月収録)