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"夢をつなぐ" Doctor's Network

J医師のインタビュー

弱視ということですが、視力の状況について教えてください。

もともとの病気は「黄斑変性症」というもので、視野の中心が欠けている状況です。左目は中心に視力がなく、周辺の視野だけが見えている状況です。矯正後の視力で言えば、0.1くらいになります。右目は中心視野がまだ少し残っていて、0.2から0.3くらいの視力があります。周辺は普通に見えますが、一部中心の視野が欠けている状況です。

日常生活にはどのような影響があるのでしょうか。

見え方としては、周辺が見えているので歩行には問題がなく、人とぶつかることもほとんどありません。中心の視野がなくて見にくいので、文庫本のようなものは読むことができません。文章を読もうとすれば、拡大鏡を用いて読むか、パソコン上で画面を拡大して読む必要があります。夜は見にくいので、走ると色々なものにぶつかることがあります。

視力が低下したのは、いつ頃からですか。

小学生の頃から、矯正しても視力が1.0くらいにしかなりませんでした。1.0あれば、読み書きにも問題はなかったのですが、中学生、高校生になるにつれて少しずつ視力が落ちてきました。それでも0.7くらいあったので、運転免許も取れたし、一時期は車の運転もしていました。大学に入ってからは、さらに視力が落ちて0.3から0.4くらいになりました。それまでにも眼科に受診していて、診断はついていなかったのですが、大学の時に初めて黄斑変性症という診断がつきました。

診断がついたのは、医学部在学中だったのですか。

一度、医学部以外の大学に進学し、その後に医学部に入り直したのですが、診断がついたのは医学部に入る少し前のことで、20歳を過ぎた頃でした。

視力が低下してきた中で、当初入学した大学から医学部に入り直すことにしたのは、どのような理由があったのでしょうか。

もともと医学には興味があったのですが、別の理数系の大学でパソコン関係の道に進みました。卒業後の就職を考えたときに、視力が落ちてきたことや仕事の内容を考えると、パソコン関係の仕事は難しいかなと思いました。そのような状況の中で、もともと興味があった医学関係への関心が出てきて、医学関係で何かしら人のためにできることがあるのではと考えたことが、転換のきっかけでした。

色々な方からお話を伺うと、医師というのは他の職種と比べると専門的な判断を求められる仕事なので、身体的な障害があっても比較的に活躍できる場があるようですが、そういう思いも医学部を考える背景にはあったのでしょうか。

そうですね。やはり国家資格のある仕事なので、手に職があるということもあって、視力が若干落ちたとしても、臨床ができるとは限りませんが、何かしら医師としての仕事を続けることが可能だろうとは、考えていました。

そういうことを考える際に、ロールモデルというか、視覚に障害のある方で医師として活躍されている方をご存知だったのですか。

その時は全く知りませんでした。というよりも、医学部を受験する時の視力はまだ0.5くらいはあって、本も普通に読めていて、そんなに困っている状況ではなかったので、そこまで考えていなかったのが正直なところです。

医学部に入るための受験勉強では、視力が低下してきたことで苦労されたことはなかったですか。

その時点ではなかったです。視力が低いなりに、あまり気にせずにできていました。強いていえば、塾などの授業は後ろでは見えないので、前に座るようにしていました。

大学に入って医学部の6年間では、入学時に比べて視力は低下したのでしょうか。

低下しました。特に5年生くらいからです。

5年生だと実習に入る頃ですね。

実習に入る頃から、見にくさが大変になってきたので、拡大鏡を少し使うようになりました。大学側には、試験の際に拡大鏡を用いたり、電気スタンドを試験会場に持ち込むことを認めてもらうなどの配慮をしていただきました。

大学には先例はあったのでしょうか。

なかったと思います。

そうだとすれば、本人からの申し出がないと、大学側もどういう配慮をすれば良いか分からないですね。その点は、自分から話をされていったのでしょうか。

そうですね。それに加えて、大学に入って主治医を大学病院の眼科の先生に変えていたので、主治医の先生によるサポートもあったと思います。同じ大学内なので、話が繋がりやすいことはあったと思います。

試験問題を拡大してもらうことはありましたか。

それも考えましたが、実際はそこまでする必要はありませんでした。大学の試験はマークシートが中心だったので、手元を明るくして拡大鏡さえ使えば対応できるレベルでした。

実習では、何か困ったことはありましたか。

学生でいる間は、勉強にしろ実習にしろ、あまり困ることはなかったです。でも、顕微鏡の実習や外科の実習は見にくいので苦手でした。

医師国家試験に向けた受験勉強は、どうだったでしょうか。

その当時は、拡大鏡も多少は使いますが、よほど細かい文字でなければ普通に読むことはできていたので、国家試験の勉強についてもあまり困ることはなかったです。

中心部が見えなくても、拡大鏡を使えば文字が読めるのですね。

はい。

文字を書くときはどうでしょうか。

拡大鏡で見えているうちは、文字を書くこともできます。今も、書けなくはないです。

拡大鏡では何倍くらいになるのですか。

今使っているものは、3.5倍です。このタイプの拡大鏡は、軽くて小さい上に、集光して文字が明るくなります。仕事では、紙の書類に当てて読むほか、パソコンの文字が小さい時は画面に当てて読んだりしています。

拡大鏡はいつ頃から使っているのですか。

大学5年生頃からです。ただ、当時は常に使うほどでもなかったので、持っていたり、持っていなかったりというレベルでした。

弱視のある方は、皆さん拡大鏡を使われているのでしょうか。弱視のタイプによっては、拡大鏡が効果的な人と使えない人がいるのでしょうか。

弱視の人にも、病気の種類によって色々な見え方があると思います。私の場合は、中心が見えないタイプですが、その中でもまだ見えている方なので、この3.5倍の拡大鏡で対応できています。人によってはもっと拡大しないと見えない人もいるでしょうし、中心ではなく周辺が見えない人や視力ではなく色の違いが分からない人もいます。

白黒反転して見る人もいますが、そういうことはされませんか。

やったりやらなかったりという感じです。眩しさというのは、見やすさに関わっています。明る過ぎると眩しくて疲れてしまって見にくくなり、白黒反転することで目の負担も減り楽になるため、パソコンで文書を見る際には白黒反転することもあります。ただ、ワード文書なら良いのですが、インターネット上のページを変換すると見にくくなることもあるので、基本的には白黒反転せずに見ています。

医師国家試験では、何か配慮をしてもらいましたか。

事前に厚生局に連絡をして、試験の配慮をお願いしました。

具体的には、どのような配慮だったのでしょうか。

拡大鏡と電気スタンドの使用のほか、試験問題の拡大をお願いしました。試験会場については、他の受験者と同じ部屋ですが、一番後ろの席にしてもらい、ライトを点けて受験させてもらいました。

医師国家試験に合格した後は、診療科に進まれるわけですが、診療科については将来のことも考えて選ばれたのでしょうか。

そこは凄く考えました。診療科を選ぶポイントは、自分に興味がある分野かどうかということと、自分が将来的にやっていけるかどうかだと思いました。まず興味という点では、特定の臓器よりも全般的な関心があったので、総合診療的なところに興味がありました。もう一つは、視力が悪いと手技的なものが難しいことは予想できたので、外科系は難しいと思いましたし、読影が必要な放射線科や顕微鏡を使う病理科も難しいと思いました。そうなると、内科か精神科かリハビリ科くらいに限られてしまい、その中から選ぶという感じでしたが、たまたま自分の興味とも合ったので総合診療科を選びました。

初期研修は大学病院で受けられたのですね。

それも理由があって、たまたま総合診療部が大学病院にあったこともありますが、自分の病状のことを在学中から知ってくれていて、母校であることで何か問題があった時にも対応してもらえる可能性が高いという安心感もあり、母校の大学病院を選びました。

初期研修期間が終わり、医師として働き始めてからは、どのような状況だったのでしょうか。働く上でご苦労されていることはありますか。

初期研修の時に大変だったのは、やはり手技のところです。研修医なので、点滴や採血の針を刺すなどの手技がありますが、当時は視力の方も微妙になってきた時期だったので、できないわけではないのですが、見づらくて大変という状況でした。ただ、視力のことは同僚や上の先生も分かってくれていて、あまり無理せずにできない場合は頼むようにしていたので、精神的な負担になることはなかったです。

手技以外はどうだったでしょうか。

数字を見たり、文字を読んだりするのが大変になってきた時期で、当時はまだ手書きのカルテだったので、カルテを読むのが結構大変でした。もっとも文字の大きさだけではなく、文字のきれいさなど様々な要素がありました。今は電子カルテになっているので、そこは凄く楽になり有難いです。

パソコンの画面上だと拡大もできるし、文字もきれいですね。電子カルテに別のソフトを入れるのは難しいと聞いていますが、文章の読み上げソフトは使わないのですか。

一時期考えたこともあったのですが、ソフトを入れるのが難しいということに加え、電子カルテを使うパソコンも1箇所ではなく、自分がいる場所によって使うパソコンも違ってくるため、自分だけのものを用意してもらうのは難しい面があるので、そこまでしてもらってはいません。

必要に応じて画面上に拡大鏡を当てることで、対応できているということですね。

今の電子カルテには拡大機能がついているので、現在使っている拡大鏡で見る程度にすることはパソコン上でも可能です。Windowsの他のツールを使えば、もっと大きくすることもできると思いますので、読み上げソフトを使わなくても大丈夫かと思います。

採血などの手技はどうされているのですか。

基本は全て頼んでいます。この病院では、医師がしなければならない手技は比較的多いのですが、私も医師として12年目になり、そのくらいになるとあまり自分でやらなくても済んでいます。採血も研修医や若手の先生にお願いしたり、看護師さんにお願いしたりできるので、今はほとんど自分ではやっていません。あと必要になるのは、画像を読むことですが、画像も近くで見れば見えなくはないのですが、自分が不安な時には他の医師に聞いています。この病院には放射線の読影医がいるので、その結果も合わせてダブルチェックで確認することで、自分だけでリスクを負わないようにしています。

大学病院という環境であるから、できている部分があるということですか。

それだからここにいる、ということでしょうか。一時期、他の病院にいたこともあるのですが、比較的大きな病院だったので、そこでもお願いすればできなくはなかったです。ある程度マンパワー的にサポートできる体制がある方が、自分としては働きやすいと思っています。見にくいため看護師さんの顔を覚えるのがなかなか難しいのが、コミュニケーションの上で少し残念ですが。

大学病院だと症例報告や論文を書いたり、文献検索をしたりする機会も多いかと思いますが、そういう時も電子カルテと同様に、パソコン上で拡大して読むことで対応できるのでしょうか。

そうですね。インターネットで論文検索するPubMedなどが普及していなかった時代は、文献を取り寄せて紙で見ることが多かったのですが、今は大部分の論文がインターネットで入手できるし、PDFの論文をパソコン上で拡大することもできるので、弱視でもある程度文字が見えれば、読むスピードの問題はあるかもしれませんが、論文を読むこと自体には支障はないと言えます。読み上げ機能を使えば、より負担は少ないと思います。

情報のアクセスという点では、随分と環境は改善されたのですね。日常生活の中で本を読むような時には、音声機能は活用したりしているのですか。

音声はあまり使っていません。まだ必要がないということと、音声の操作に慣れていないというところです。どうしても読まなければならない文献や教科書は拡大して読みますが、それ以外の本は最近は家ではあまり読まなくなりました。読みたい本は電子書籍で読んでいる感じですが、読む量はすごく減りました。

自分自身で工夫されていることのほか、周りに配慮してもらっているのは、手技と読影以外に何かありますか。

当直を免除してもらっています。一つ目の理由は、自分の健康面の理由からで、当直することの身体的負担が視力の悪化に影響するかもしれないからです。もう一つの理由は。夜間で医師の数が少ない時に自分で対応するリスクを考えて、当直を免除いただいています。その代わり、日中にできる仕事で他の人がやりたがらないような仕事を、できる範囲で割り振ってもらって、カバーする感じにしています。

日中で他の人がやりたがらない仕事とは、どんな仕事ですか。

例えば救急当番とかです。救急当番も自分だけではなく研修医もいるので、彼らが目の代わりになってくれて必要なサポートもしてくれます。以前働いていた病院だと土日が休みだったので、夜の当直はしない代わりに、土日の日勤を担当させてもらいました。今の病院では、当直体制が夜に被ってしまうため、昼だけの勤務はありません。

過労やストレスが目の状態に良くないことがあるのですね。

はっきりとは言われていませんが、その可能性はあるので、主治医からもあまり無理しないように言われています。光についても、今の眼鏡にも遮光が少し入っていて、あまり眩しくないようにしています。

病院というのは壁も白いし、照明も強くて、他の職場に比べて明るいですね。

そうですね、明るいですね。人によって感じ方は違いますが、私の場合は明る過ぎても見にくいですが、あまり暗いと見えにくいです。眼鏡に入っている薄い遮光でも、文字を見ようとすると逆に暗くて見にくいです。

調節が難しそうですね。診察を行う診察室の照明は、調光はできるのでしょうか。

できそうにはないですが、そこまでしなくても私は大丈夫な状況です。ただ、人によっては、例えば網膜色素変性症の人だと眩しさを感じやすく、茶色の遮光眼鏡をかけている人も結構いるので、見え方によってはそうした配慮が必要かもしれません。

網膜色素変性症というのは、どんな状態なのでしょうか。

網膜色素変性症の人は結構いますが、視力の幅もかなりあって、そこそこ見えている方から全盲くらいになってしまう方もいるので、個別的な対応が必要かと思います。

ご自身の今の状態は、安定しているのでしょうか。

徐々に落ちつつも、比較的安定していて、仕事は何とかこなせているという状態です。

今後もこういう状態で安定していくのか、若干低下していくのか分からないわけですが、医師としての将来については、どのように考えていますか。或いは、どのように希望されていますか。

現在の診療内容は、総合診療の中でも特に緩和ケアという分野です。自分の興味があるということと、視力がそれほど必要なくできることも、選んだ理由です。勿論、診察することも必要ですが、苦痛を取るための工夫を考えることと、そのためにどちらかというと話を聞くことが大きかったりするので、そういう意味では、将来視力が低下していってもある程度は続けられるかと思っています。それでも、本当に字が読めない、カルテが読めない状況になったら、多分、もっと助けが必要になってしまうと思います。今は自分で読めていますし、患者さんの顔の様子も、顔色は若干見えなかったりしますが、皮膚科などではないので、診察に影響するほどのものではなく、できる範囲でやっていけると思っています。今後、もし視力が落ちてきて、患者さんの顔も分からなくなったり、カルテが読めなくなったら、その時は本当に考えなければならないと思います。続けられる範囲ではやっていこうとは思っていますが、それが難しくなってきた時には、もう少し教育的な立場とか、臨床の経験を生かしつつ、それ以外の方向から医療に携わっていけたらと思っています。

大学の医局に属されているので、別の病院に異動することもあり得ますが、そういうことも含めて、出身大学なので理解してくれる可能性があるのでしょうが、例えば、一人で開業医としてやっていくのは難しいでしょうか。

一人で開業するとなると、いろいろなサポートが必要となるので、そこは難しいと思っています。大学だとある意味サポート体制もあるので、これからもできる範囲の中で大学にも貢献していければ、居場所は残されるのかと思っています。開業するとなれば、診療のサポート以外に経営のことなども自分で考えないといけないという負担もあります。経営をするのが楽しみになるのであればよいかもしれません。

大学の中で同じように視覚に難しさを抱えている医師の情報はありませんか。

以前、そういう方がいるのではないかと考えて、院内のメッセージで、「もし視力障害の人がいれば、情報共有しましょう」と呼びかけたことがあるのですが、手をあげる人がいませんでした。困っている人はいるのかもしれませんが、情報共有はできていません。

視力の障害というのは、糖尿病などの成人病から生じることもありますよね。結構、そういう方はおられるように思いますが。

私の知っている医師でも一人目が悪い方がいますが、その方なりに臨床をやっていて、大分年配なのであまり深く介入することは控えています。目が悪いという共通の点での情報共有している人は、院内にはいないですね。

近い人には、かえって話しにくいかもしれませんね。「夢をつなぐDoctor’s Network」のような、匿名での情報共有が参考になる人もいるでしょう。この点に関して、現に医師として働いている人の中で、視覚の問題で将来に不安を感じている方に対して、何か伝えたいメッセージがあればお願いします。

私の思いとしては、視力の程度にもよりますが、医師の仕事を続けることはある程度できると思います。ただ、自分のやりたいことができるかというのは、また別問題かと思います。どのような形で自分が医師の仕事を続けたいかにもよりますが、今までの経験があると思うので、そこをどう繋げていくかです。周りのサポートがある程度は得られる環境もあると思うので、そこの環境でやっていけるかどうかにもよりますし、その内容にもよります。本当に視力が低下して全盲くらいになってしまい、カルテも読めなくなってしまった時に、果たしてどこまでやっていけるかですが、この点については「視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)」の他の先生方の活躍を見ると、苦労されている先生もいますが、それぞれ色々と工夫されたり、診療科を変えたり、サポート体制の工夫、病院組織としての理解などがうまく整えば、医師として働き続ける可能性は十分あると思います。

先ほどのお話では、そういう理解をしてもらうためにも、できる範囲で貢献していくことが大事ということですね。それまでとは違った仕事というのは、どんなものでしょうか。

例えば外科の先生だと、手術はできなくなってしまいますが、そのスキルをどう後輩に伝えていくかという仕事もあるでしょうし、診療をしたければ、内科系とか緩和であれば、手技ができなくてもやれる余地があると思います。方向性は変わってくるかもしれませんが、臨床を続けられる可能性もあると思います。視力の程度によって違うので、そこが難しいところですが、元々専門知識があるのですから、自分の障害の状態の中で生かせるスキルというのは、少し経験すれば他の分野でも色々とできることはあると思います。その場での自分の存在意義を見つけられると、働きやすいかもしれません。

最後に、弱視のある中学生や高校生で、医師を目指して良いか悩まれている皆さんへのメッセージをお願いします。

正直なところ、視力が低下して見にくいと大変だと思います。医学部に入ってからの勉強や実習でも、他の人よりも凄く時間もかかると思うし、卒業するのにも苦労されるとは思います。ただ、今は医師免許について障害を理由とする欠格条項もなくなっていますし、入学試験に合格して、やる気があって、大学側がある程度配慮してくれれば、国家試験さえ合格できれば、道は色々とあると思います。弱視だから医師になれないと、否定的に考える必要はないと思います。むしろ、身体的な障害がある分、患者の気持ちに近づけるメリットがあります。患者の立場に立って考えられる医師は大きな強みです。

進路には色々な道があって、その一つが医療という道だと思いますが、他の道もそれなりに厳しいわけですね。厳しいという点ではどの進路も共通なのでしょうが、その中で医療という道は、厳しいけれども可能性もあるということでしょうか。

確かに他の学部に行っても大変ですね。その意味ではそんなに変わらない。医学部では実習の面にどれだけ影響するかですが、今は手技がそれほどできなくても良くなってきていますし、最近は細かな手技は看護師が行えるように業務範囲も拡大されてきているので、本当に医師が目を使ってやらなければならないことは、減ってきているという感触があります。外科の場合は別ですが。国家資格さえ取れれば、弱視でも働きやすい環境になってきていると言えるでしょう。

何でも一人でやるわけではなくて、補助者も一緒になってやるわけですね。

「チーム医療」なので、自分一人で全部やらなければならないわけではありません。診療科によっては、精神科をはじめ視力をあまり使わなくてもできる科もあります。内科系でも内視鏡を使う消化器内科のように手技が必要な科もありますが、総合診療科では医師が必ずしも手技を行う必要はありません。糖尿病内科やリウマチ膠原病内科などは、あまり目を使わなくても良いかもしれません。そういう意味では、選択肢の幅があると思います。むしろ看護師よりも医師の方が働きやすいかと思います。看護師だと、動かなければならなかったり、観察したりすることも多いので、視力に問題があると医師以上に大変かもしれません。

医師の仕事の本質は、判断することでしょうか。

色々なことを判断して決める仕事ですね。医師の判断は責任が大きいので、その自覚をもってリスクを減らす工夫は心がけなければなりません。必ずしも見えていることが全てではないと思います。情報共有についても、ITの普及により便利になってきているので、今後はもっと文章ではなく音声で情報が得られる時代になっていくと思います。また、大切なのは、職場の関係性、コミュニケーションで、自分のことを知ってもらいながら、お互い協力して医療を行っていくことですね。そういう意味では、医師という仕事も選択肢として持って、目指していく価値があると思います。

本日は有難うございました。

(2020年3月収録)